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【おじゃまします#1】尾道のおばあちゃんとわたくしホテル in 広島

様々な取り組みをしている事業所や施設をもっと紹介したい。
きっとそこには多くの想いが込められているはず。素敵な取り組みをしている事業所や施設、地域を支えている方など、たくさんの方に会って話を聞いてみたい。
そんな思いから、新企画が始まります。


わたしがわたくしになる、0.25倍速のスロー・ラグジュアリー。

企画の初回に訪れたのは、広島県尾道市にある「尾道のおばあちゃんとわたくしホテル」。美味しい珈琲屋さんや飲食店が並ぶ公道沿いの、介護施設と同じ敷地内にホテルはあります。
介護施設とホテル  ――
一見ミスマッチなこの組み合わせ、実はひとつの法人である「株式会社ゆず」が手がけているのです。認知症ケアに特化した⾼齢者介護福祉サービスを提供している会社が作ったホテルとは、一体どんな施設なのでしょうか。

山と空がよく似合う空間

背景の山に溶け込む外観やそこに流れる雰囲気と併せて、思わず「おじゃまします」と言ってしまうほど、ホテルっぽくないし、介護施設っぽくない。
それは、ホテルのコンセプトが『わたしがわたくしになる、0.25倍速のスロー・ラグジュアリー。』だからこそ。
この「わたくし」とは、芯を持って背筋をのばして生きる願いを込めています。また、「0.25倍速」は、いつもの1/4ぐらいの緩やかな速さのこと。人生の先輩方が、散歩したり立ち上がったりするときは、0.25倍速くらいゆっくりですが、その時間の流れ方には、自身と丁寧に向き合ったり、物事をゆっくりと捉えたりするヒントがあるとのこと。

共用のお庭を挟んで左側がホテル、右側が介護施設になっています。
部屋数は3部屋、受付は介護施設側の建物内にあります。これは、宿泊のお客様が「介護」に出会い面白さを知ってもらったり、利用者さんの変化にも繋がっています。例えば、施設の利用者さんがお客様に笑顔で鍵の受け渡しをしてくれたり、お客様がチェックインするのを楽しみに待っていたりもするそう。

自分や友人が、心から入りたいと思える施設をつくりたい

バリアフリーの引き戸をあけると、正面の大きな窓からあたたかい日差しが入り、気持ちがいい。3つの部屋と共有空間であるリビングには、その場で過ごす人の心を包み、くすぐるようなこだわりの家具や小物などの演出がされており、その中に「この空間に、自分が大切にされている」と感じられるようなユニバーサルデザインが多くみられます。

天井も高く、つい時間を忘れてしまいそうなリビング

テレビもなく、時計も最小限、暖色系の灯りが包む空間には、風や光など自然を感じられるやさしいものであふれていました。
タイパが重要視され、時間の使い方に注目が集まるなか、この敷地内ではまさに0.25倍速の時間の流れを体験できます。

この空間が生まれた背景には、プロジェクトチームで「さまざまな事情で外に泊まることがままならない方」の状況や、感情を想像したことにあります。寝たきりで介護が必要な方、闘病により体力が落ち外出を諦めている方、心を休めるための時間を切望する方…そんな方が、ふとホテルの存在を思い出して、ここで過ごしたいと思える場所にしたい。
自分や友人が、心から入りたいと思える施設をつくりたい。
そんな空間を叶えることができたのは、代表取締役の川原奨二さんの想いを「翻訳」し、心が動く空間にした、作業療法士で感情環境デザイナーの杉本聡恵さんをはじめプロジェクトメンバーの存在があるからだといいます。

感情環境デザイナー 杉本聡恵(すぎもとさとえ)さん
エンプラス株式会社 代表/作業療法士

バリアフリーな客室内。右側がシャワールーム。

ホテル内はベッドまわりも車いすが通れる幅に設計されており、もちろんシャワールームもバリアフリー。
機能性とデザイン性のどちらも諦めずに、みんなが気持ちよく過ごせるように考えぬかれた、やさしい設計です。
『介護職以外の人にも、このホテルに来ることで介護や福祉を身近に感じてほしい』そう語る施設スタッフの日高さんは、どんな小さな物を置く場合でも、物の選定や置き方など、感情環境デザイナーの杉本さんと相談して決めているそう。

また、部屋の中やリビングなど、いたるところに詩が描かれています。宿泊者からのメッセージ帳やお土産としてもらえる言葉のメモ、さらにお庭には会話のきっかけになる言葉のカードなどもありました。
日常ではふと通り過ぎてしまうような、気持ちや感情を大切にするしかけがいたるところにあるのです。

多くの人は、身近な人に介護が必要になったときや自分の年齢が進んでいくにつれ、初めて介護について考えるのではないでしょうか。
介護や福祉は、いつか必要になるみんなの未来です。だからこそ、そうした介護への心理的な距離を縮めるためにこのホテルは造られました。

おとなりの介護施設「ゆずっこホームみなり」

部屋の窓からみえるのは、介護施設「ゆずっこホームみなり」。
ゆずっこホームみなりは、ホテルと一体的にデザインされた小規模多機能型居宅介護です。
1人ひとりの状態に合わせ、訪問介護、デイサービス、ショートステイなどの介護サービスが受けられます。

この施設には手すりがありません。ホテル同様、手すりがなくても安全に歩けるように設計・デザインされています。歩行練習の際も、ジグザグに配置された家具を使い、折り返し地点にはテーブルと花瓶が置かれています。
ゆったりと腰かけテレビを見る人もいれば、囲碁を楽しむ人、おしゃべりを楽しむ人、それぞれが居心地よく同じ空間で過ごせる工夫がこの場所にはたくさんあります。

いつまでも、どこまでも、フリースタイル

取締役を務める安保さん(左)とコンシェルジュの日高さん(真ん中)

組織作りも、施設に掲げられている『フリースタイル』の言葉を大切にしています。利用者さんが主役だけど、職員の個性も大切したい、そんな想いからピアスや服装も自由。職場でネイルOKということを知り、この施設で働き始めた方も。

1人ひとりの個性や生活を大切にして、得意な仕事を任せあっているからこそ、採用する際に大切にしている基準は『理念に共感してくれているかどうか』の人柄重視。「働き方もなるべくその人の生活に合わせたフリースタイル。だから、シフトを組むのが本当に大変なんです」と笑うのが、取締役を務める安保さんです。
もちつもたれつ、でこぼこがあるからいいのだと話してくれました。

いつまでも、どこまでも、フリースタイル。
心理的な壁のない施設や働き方、もちつもたれつの関係性から生まれる地域と福祉の距離を縮める取組み。
その創造性と行動力で、これからも『フリースタイル』な介護の未来造りへの挑戦は続きます。

尾道のおばあちゃんとわたくしホテル
〒722-0215広島県尾道市美ノ郷町三成1114-2
【運営会社】株式会社ゆず
法人本部:〒722-0215 広島県尾道市美ノ郷町三成1571-7

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