2023全国大会DAY2 第三分科会
第3分科会のテーマは、「その他(地域共生社会、地域包括ケアなど)」
枠にとらわれない多岐にわたるテーマの発表となりましたが、会場となった小ホールは多くの参加者が集まり、会場全体が適度な緊張感に包まれながら分科会がスタートしました。
演台①:養成校と介護福祉士会との連携―未来に向けての取組―
演台1は、養成校と島根県介護福祉士会が連携し、会主催の研修に学生の参加を呼びかけ、参加状況からその後の会への入会の効果を2019年度から継続して調査している研究です。人材不足が喫緊の課題となっているなかで、質を担保しつつ人材を確保していくための方策として、効果検証が期待されます。
今年度の調査では新たな取組として、研修の中で事業所の魅力などを発信し、『伝える能力』を磨くためのティーチングスキル研修を取り入れました。実施時期は2022年6月というコロナ禍だったにもかかわらず、20を超える事業所が参加し、参加した学生に対して魅力等について伝えました。
また一方で、利用者さんの心身の状況に応じた介護を実践するためには養成校で学ぶ介護過程を今一度会員に展開し、相互の専門性を高める必要があると考え、学生からも会員や関係者に向けて発表する機会を設けています。これには島根県内すべての養成校が参画し、約50名もの会員・関係者が見学するなど、需要が高いこともうかがえました。
残念ながら継続調査がスタートしてからコロナの影響を大きく受け、研修会自体の回数が減ったことで、研修参加学生のその後の入会率は減少傾向にあります。一方で、研修会に参加することで介護福祉士会の必要性が実感できるとも考察できました。
新型コロナウイルスが5類に移行されたことで、研修会の実施も従来通りに戻ってきていて、今年度の結果から改めて研修会実施と入会との関連性が見えてきます。
ただ入会に繋げるだけでなく、学生と会員のお互いが研鑽を積んでいくこの取組は、介護福祉士としての専門性を高めていく上で貴重な機会だと感じました。
演台②:介護医療院における食事とBGMの関係性を探る
演台2は、利用者さんご本人やご家族が入所時のご希望で「最後まで口から食べて欲しい」という願いを叶えるため、食事とBGMの関係性に着目して摂取量や摂取時間の変化について調べた研究です。
一定の条件に該当する男女の利用者さん6名に対して、食事中のBGMを無音・クラシック・演歌・アニメソングの4種類に分け、一カ月の間種別に異なるBGMを流し、独自のチェックシートを使って食事にかかるトータル時間などを平常時と比較しました。
調査の結果、食事の摂取量についてはばらつきがみられ、今回の調査では関係性について効果は得られませんでした。これは、対象者の年齢やそれぞれが抱えるADLや認知機能面等の違いが要因ではないかと考察しました。一方で、摂取時間においては全体的に減少傾向が見られ、音楽がリラクゼーション効果や心身に働きかける効果が得られたと結論づけました。
質疑応答では、「BGMをそのような視点で考えたことがなかった。うちも参考にしたい」といった感想が出るなど、食事を楽しみとして生活の質を上げていくための気づきを与えるきっかけになったのではないでしょうか。
演台③:日本の介護施設における国際的な表記についての考察―特別養護老人ホームはNursing homeと英訳できるのか―
演台3は、超高齢社会の日本の介護施設種別や内容が世界でも注目されている中で、諸外国へ向けて発信するにあたり介護施設の多くが「Nursing home」と英訳されていることに着目し、多岐にわたる施設種別を正確に表現出来ているか調査した研究です。
調査では、海外医学論文から日本の介護について書かれているもののうち、「Nursing home」というキーワードがタイトルに付いている論文が、日本のどの介護施設について記されているものか分類しました。
結果、Nursing homeが日本の特別養護老人ホームであるとはっきり記されているものは半分に満たないことが分かりました。その他、種別不明のものや介護老人保健施設を指すものも多く存在しました。
特養誕生当時、厚生白書昭和37年度版に『諸外国にその例をみるナーシングホーム(看護施設)を計画的に設置していくこと』と記載があり、これが特養=Nursing homeという英訳につながったという考察しました。また、論文の9割が医者又は大学教授による発表であることから、介護福祉士が独自の文化『Kaigo』として発信していく必要があると結論づけました。
世界一の高齢社会国として、介護福祉士が介護をリードしていくことは重要で、また、今回のように素朴な疑問を抱えるのではなく、発信していくことの大切さを改めて感じました。
演台④:アクティブシニアの介護助手の労働状況と肯定的意識―アクティブシニアの介護助手へのインタビュー調査を通して―
演台4は、介護人材の確保が喫緊の課題となっている中、元気な高齢者(アクティブシニア)による介護助手の実態や可能性等について調査した研究です。
調査には、県内介護施設長へのアンケート調査から介護助手が所属する施設のうち、本人から同意の得られたアクティブシニア介護助手を対象とし、実態や課題等についてインタビュー調査を実施しました。
ヒアリング調査の結果、業務内容に対しては食事ケアを中心とした周辺業務を担うことや、楽しく前向に働ける環境、負担が軽く健康的に働けることなど、ポジティブな意見が多いことが分かりました。一方で、労働における課題については、アクティブシニアに対する研修が無い・受けられないこと、人手不足を感じる、能力が認められていないと感じるなどが挙げられたものの、カテゴリで見るとメリットの方が多い結果となりました。
介護人材不足が課題となっている中、極めて貴重な研究結果だと感じました。アクティブシニアの介護助手の方々がやりがいを感じることで、それが施設全体の働きやすさにも繋がっていくと感じました。
演台⑤:福祉施設におけるハラスメントの現状と対策の一考察
演台5では、職場におけるハラスメントの実態調査から、介護現場職員の離職防止と働きやすい職場づくりに繋げるための研究です。
調査には、県内の介護福祉士会に所属する全会員に自記式質問調査票を送付し、ハラスメントマニュアルの有無や、実際にハラスメントを受けたかどうか、およびその内容、そして相談窓口の有無などを集計し、114人の回答から考察しました。
アンケート結果から、マニュアルがあると回答した人が5割、ハラスメントを受けた経験のある人が5割超、その際に上司に相談してない人が5割超という結果に。マニュアルはあっても、適切に機能しているかどうか疑問が残る結果となりました。また、相談しても解決につながらないケースもあるようで、これらを防ぎ良い職場環境としていくには、ハラスメントに対する理解を深める研修や“気軽に”相談できる窓口が必要と結論づけました。
介護現場に限らず、どの職場でも起こりうる問題ですが、私たち一人ひとりが自分事として捉えて、職場全体の風通しを良くしていく努力が大切だと感じました。
演台⑥:通所介護における高齢介護助手の効果―介護職員・介護職以外の職員・高齢者・利用者の立場から―
演台6も、高齢者による介護助手に関する研究です。入所施設での介護助手の導入は広まりつつある一方で、通所施設ではその効果が明らかになっていないという疑問から、通所介護現場における高齢者による介護助手の実態について考察した研究です。
調査には通所介護施設のうち、高齢者介護助手を雇用している事業所の協力を得て、各施設管理者又は職員にヒアリング調査を行いました。
ヒアリング結果から、介護職員の立場から「チームの一員としてなくてはならない存在」「時間に余裕ができた」などのポジティブな回答が得られました。また、働く高齢者にとっても「定年後のやりがいになった」「働く場があってありがたい」など、お互いがメリットを感じていることが分かりました。
結論として、入所施設同様に通所介護においても、業務負担軽減や職場環境の改善など、介護サービスの質の向上に高齢者介護助手が重要な立場であると位置づけました。
トップダウンによる解決だけでなく、現場での素朴な疑問から情報を発信することで実態が明らかになり、これをきっかけに課題解決につながるという草の根の活動は、意識変容に重要な役割があると感じました。
演台⑦:介護福祉士のニーズから見た介護福祉士会の役割に対する検討―栃木県内の介護福祉士に向けた意識調査から―
この日最後の発表となった演台7は、介護福祉士の現場の悩みを解決していくのは職能団体である介護福祉士会が担うものと位置づける一方で、入会率が極めて低いことに危機感を抱き、その実態や原因について考察した研究です。
調査では、県内の介護福祉士729人に無記名自記式質問票を送付し、566人の回答から入会状況や介護福祉士会への興味関心などを単純集計、クロス集計を用いて検証しました。
結果、入会は10%にとどまり、85%は入会していないことが分かりました。入会理由としては、「介護福祉士としてのスキルアップのため」「なんとなく継続している」の順に多いことも判明しました。一方で、入会していない理由には、「介護福祉士会を知らない」が5割を超える結果となり、次いで「メリットを感じない」「事業活動が分からない」という結果になりました。
また、労働条件や仕事の悩みについては施設種別毎に差異が見られる結果となりました。
結論として、そもそも介護福祉士会を知らない人が過半数を占めていることから、周知の仕方を見直す必要性があること、そして高い意識を持った会員がいる一方でなんとなく継続している会員も多いことから、研修カリキュラムの実態や課題整理が必要であると考えました。さらに、労働条件や仕事の悩みについて、意見交換の場を設け、それぞれの悩みに対して介護福祉士会が直接介入できる仕組みもあると良いと結論づけました。
会員の拡大は直接組織強化につながるため、貴重な研究結果を頂戴しました。今、日本介護福祉士会でも組織強化に向けて、このnoteも含めてさまざまな改革を行っていますが、引き続き認知度向上や組織力の向上に向けて邁進したいと思います。
第3分科会では、テーマが「その他」とあるように、多岐にわたる興味深い発表が行われました。しかし、いずれにも共通しているのは、普段抱えている疑問を個人の中で終わらせるのではなく、情報発信することによって他の人にも気づきがあるという点です。介護福祉士会が介護現場をリードしていくためにも、note編集部も引き続き皆様にとって有意義な情報発信をしていきたいと思います。