福祉・医療の現場でたびたび遭遇する「倫理的ジレンマ」って何?支援者としてどう向き合えば良い?
みなさん、こんにちは。日本介護福祉士会note編集部です。
今回は北海道介護福祉士会副会長で、当会の倫理担当役員をしている酒井賢一常任理事からのレポートをお送りいたします。
みなさんもきっと「倫理的ジレンマ」について考えることが、実は何度もあるのではないでしょうか。
人が生きていく上でも、仕事をしていく上でも、人が人と関わる何かをする時、倫理的ジレンマに向き合うことが多いと思います。
今回、とある福祉系高校から職業倫理に関する授業への協力依頼をいただき、倫理的ジレンマについて改めて考える機会を得ましたので、みなさんと共有したいと思いました。
倫理的ジレンマとは
倫理的ジレンマとは、どちらかが明らかに正しくて、どちらかが明らかに間違っているとはいえず、そのどちらも大切だったり必要だったりするような、微妙な倫理的な価値の対立が生まれることです。
日常生活の上でもたびたびあることでもあり、私たち介護福祉士が介護を通じて生活支援をする様々な場面でも経験することではないでしょうか。
倫理的ジレンマの典型例「トロッコ問題」
倫理的ジレンマの典型例として「トロッコ問題」があります。
福祉・医療の分野だけでなく、哲学、経済学など様々な学術領域で取り上げられるテーマのため、ご存知の方も多いかもしれません。
という問題です。
トロッコ問題には別のケースも存在しています。
倫理的な根拠とは
トロッコ問題の例はちょっと極端な例ですが、「5人(1人)の命」を「集団・社会(個人)の利益・自由・権利」などに置き換えてみると分かり易いかも知れません。
このように複数の異なる価値基準の板挟みとなり、判断に迷ってしまうようなケースを「倫理的ジレンマ」と呼んでいます。
わたしたちが働いている介護の現場でも、倫理的ジレンマは日々発生しています。
・自己決定の尊重と介護事故の防止・安全対策
・プライバシーの保護と排泄・入浴ケア
・本人の希望と家族の意向
などなど。
他にも、専門職が捉える “ニーズ” とご利用者本人が抱く “希望・要望(デマンド)” とのギャップなど、皆さんも悩んだり、葛藤したりするケースが少なからずあるのではないでしょうか。
倫理的ジレンマに陥った際は、主観的・感覚的に解決策を考えるのではなく、きちんと倫理的根拠に則って対応を検討する必要があります。
では、倫理的な根拠とはどのような考え方でしょうか。
介護実践の場での困りごとは、個人の倫理的判断ではなく、介護福祉士の職業倫理を基準にして、考え、方針を立て、実践することで倫理的根拠のある介護・支援となります。
それを考えるための一つの倫理判断の基準に普遍的生命倫理の4原則があります。
4つの原則をもとに考えて問題を見出し、倫理的な調整をして、倫理的な実践をおこないます。
倫理綱領と倫理基準
倫理観は一人ひとり違います。違うからこそ基準値が必要となります、だから、介護福祉士の職業倫理の学びに普遍的生命倫理の4原則があるのだと思います。
そして、私たち介護福祉士の正しい方向性と姿を示している、日本介護福祉士会の倫理綱領と倫理基準が、介護福祉士の介護実践の根拠としてあるのです。
いまこれを読んでくれている介護福祉士の皆さま、日々の介護実践は、いつも倫理的ジレンマの中で展開しているといっていいでしょう。
それに気づいていますか。気づいたならばどうしていますか。
私たち専門職は、介護実践における倫理的ジレンマに対応する術をすでに知っています。
あとは、それをどう活かしますか。
倫理的ジレンマに気づいて、倫理的根拠を持ってまっすぐ向き合う介護福祉士でいませんか。そこに介護福祉士の本質的なプライドがあると思っています。
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