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「おいしい」と「楽しい」をおうちまで。地域と世代を繋げる『じーばーイーツ』って?

今ではすっかり定着したフードデリバリー。様々な場所で自転車に乗った配達員を見かけるようになりました。
そんなサービスに着想した、少し変わったデリバリーが愛知県豊田市に誕生していました。



誕生のきっかけ

車で食事を運んでいる女性は村瀬麻衣さん。普段はデイサービスで介護福祉士として働いています。
配達先のお家につくと「こんにちは」とにこやかにご挨拶をして、家のなかへ進んでいきました。そして世間話をしながら、一緒に食事を始めます。実はこれ「ウーバーイーツ」ならぬ「じーばーイーツ」です。

 

代表の村瀬麻衣さん

「じーばーイーツ」は地域の飲食店のお弁当を高齢者のご自宅へ届け、スタッフも一緒にお食事とおしゃべりを楽しむボランティア活動です。
対象は合併前の旧豊田市にお住まいの65歳以上で、要介護認定を受けていない方。現在、利用は1人月1回に限定しています。

代表の村瀬さんは最初、デイサービスで送迎する高齢者の方の一人暮らしの多さに気が付きました。1人暮らしのお宅のところには、大体衛生面を考えて、 発泡スチロールに入った冷えた配食のお弁当が届けられています。そのお弁当を、今日のお弁当だから温めて食べてね、と発泡スチロールから出して渡していました。手渡す際、冷えたお弁当を1人で食べるのはすごく寂しいし、食べた気がしないだろうな、と気になっていたのだそう。
「そしたらある時、ご利用者の方に『こういうお弁当も誰かといっしょに食べたら、おいしくなるかもしれんから、たまに食べに来て』と言われたことがあって。でも今の介護保険のサービスの中ではそういうことはできないですし、 また、ホームヘルパーの役割ともちょっと違うので、その言葉だけが、心に残っていたんです。」

それに追い打ちをかけたのが新型コロナウイルス感染拡大です。高齢者の孤食が増え、自宅にこもりがちになり、ますます孤立する環境が進んでしまいました。
そんな中、街中でウーバーイーツをよく見かけるうちに、この仕組みを高齢者に合わせたらどうだろう、と思いつきます。高齢者のおうちにご飯を届けて、なおかつ一緒に食べたら、きっとおいしい。しかも、ちゃんと味と衛生面が保証されたものを届けられれば、高齢者は家にいながらでもおいしく、人とコミュニケーションが取れる食事ができるかも、と最初の構想が生まれました。


じーばーイーツの仕組みづくり

まずは、福祉や行政関係の知り合いにじーばーイーツの構想を話してみると『すごくいい』と背中を押され、福祉関係の仲間や講義していた大学の学生に呼び掛けてボランティア団体をつくりました。
構想を実現するにあたっては、ランニングコストをどうするかが課題でしたが、豊田市が官民連携で取り組む、介護予防事業のソーシャルインパクトボンド(SIB)を活用しました。

スタッフは現在、20〜60代の男女25人程。初回は、申し込みのあった高齢者から食品アレルギーや既往歴の聞き取りをします。じーばーイーツの支援だけでなく、もう少し踏み込んだ支援が必要だとなれば、地域包括支援センターと連携することも。その後は高齢者にお好みのお弁当を選んでもらい、2人1組で自宅に届けて一緒に食事を楽しむ、という流れです。

取材の日は代表の村瀬さんと、中京大学総合政策学部3年生の田中友惟(タナカユイ)さんのペアで、豊田市の伊豫田敏宏(イヨダトシヒロ)さん宅を訪問。


最近読んだ面白い本で盛り上がる3人


高齢者のファンも多い『梅の花』のお弁当を食べながら、旅行の話や伊豫田さんの趣味の絵画の話、田中さんのボランティア活動についてなど話題は尽きません。ご家族と同じ敷地で暮らす伊豫田さんは「新聞でじーばーイーツの活動を知って、応援になるなら、と申し込んだ」そう。


2人とも書道が好きで
お互いの作品を見せ合う田中さんと伊豫田さん


梅の花のお弁当は、じーばーイーツの活動に共感してくれた支店長が本部にかけあい特別価格で提供してくれています。梅の花の他にも、お弁当屋さんや飛沫感染防止のアクリルパネルを扱う会社など、複数の地元企業が主旨に賛同し協賛してくれているそう。


食事前には伊豫田さんがいれてくれたお抹茶をいただきました
梅の花のお弁当


これからも地域と一緒に

これまでの活動のなかで、今までお料理に興味がなくお弁当中心だった高齢者の方が、じーばーイーツを利用するうち、料理に興味がわき自炊するようになったり、子どもたちの見守りボランティアに参加するようになった人も。
そしてじーばーイーツの活動に共感し、違う地域でも同様の活動が始まりました。高齢者のQOLが上がり、地域との繋がりが広がる様子をみて、この活動が少しでも何かのきっかけになれば、と代表の村瀬さんは話します。

地域、世代を繋ぐ、じーばーイーツの取り組み。今回の取材でたくさんの笑顔に出会い、さらにこの活動が全国に広がっていくことを心から応援したいと思います。


記事が掲載されている『介護福祉士の本2025』はこちらから👇


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