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2023全国大会DAY2 第二分科会


演題①:「介護基礎技術向上研修プログラム」の評価―研修受講3年後のインタビュー調査―

演題1は、「『介護基礎技術向上研修プログラム』の評価―研修受講3年後のインタビュー調査―」。
無資格や未経験の介護職員に対する、介護技術の向上や職場定着のために取り組んでいる「介護基礎技術向上研修プログラム」の評価に関する報告でした。

この研修プログラムでは、①新任職員と指導的職員がペアで参加すること、②「利用者体験」を行うこと、③「介護基礎技術ハンドブック」を活用することを特徴としています。

ペアで参加することで、実際の利用者に当てはめて考えたり、新任職員の不安や悩みを聞く機会になったりと、双方にとって効果的であったことが確認されたそうです。演習を通じてケアに対する意識に変化が見られたり、後輩への指導のために基本的なことについての理解の必要性を確認したり、と研修内容が継続的に実践に影響していることもうかがえました。一方で、この研修のために開発された「介護基礎技術ハンドブック」については、受講3年後時点では使用されていなかったそうです。


新任職員と指導的職員がペアで参加することで、新任職員の思いや考え方への理解が深まるなど、職場内でのサポート体制の構築や関係性の在り方につながることが示唆されたことは、人材育成やチームケアの体制づくりに寄与するところが大きいように思われます。

演習を通じて利用者への認識を深めたり、「介護基礎技術ハンドブック」といったツールを通じて介護技術を理解し身に付けていくことは、ケアの質の向上につながるものでもあるので、この研修プログラムやツールが継続して実施・活用されるための取組が期待されます。

多様な人材が参入する中で、より良い介護の提供のための人材育成や、安心して働ける環境づくりのための気付きが多くあるように思いました。

演題②:新型コロナウイルス感染症流行時の私たち―鳥取県介護福祉士会の会員調査報告―

新型コロナウイルス感染症の流行時に、要介護者の暮らしと命を守り続けるために、介護福祉士はどのような状況にあったかを、全国調査を参考に、鳥取県介護福祉士会の会員を対象に実施した調査に関する報告でした。

調査がおこなわれたのは、2022(令和4)年11月。同年8月には、一日当たり新規感染者数が最多となっており、介護現場においても高い緊張感の続く日々だったことが想像されます。

全国調査と比べて、①高齢者、小学生、未就学児との同居率が高かったこと、②コロナ禍の影響による変化に対して、心身の負荷が強く認識されていたこと、③仕事の継続に当たっての不安やストレスの軽減に、職場内外の身近な人との会話等の効果が強く認識されていたこと、④都道府県外への移動や、旅行・レジャー等の自粛に対する要請に強いストレスを感じていたことが明らかになったそうです。

全国調査と時点が異なることなどから研究の限界はあるとのことでしたが、コロナ禍において要介護者の暮らしと命を守るために、私たち一人ひとりの実践に着目してくださった研究でした。

また、同僚や家族等、身近な人との関わりの効果が示唆されたことからも、身近な人の存在に私たちは支えられていること、身近な人との関係性や交流の大切さがあらためて感じられました。

演題③:AMG介護職員キャリアシステム整備の成果と課題―介護職員クリニカルラダーに焦点を当てて―

AMG(上尾中央医科グループ)では、2015年からグループ施設の介護職員のキャリアシステムの構築を行っており、現在までに、以下のとおり6つが整備されています。

①キャリアパス(介護職員用)、②介護クリニカルラダー、③介護マネジメントラダー、④介護技術チェックリスト、⑤介護ラダーレベル到達のための学習内容、⑥介護ウェビナーVOD(動画学習教材)

介護職員キャリアシステムの整備の成果や課題についての、介護クリニカルラダーに焦点を当てて行った分析からの報告でした。介護職員キャリアシステムの運用結果として、以下のようなものが示されました。

・キャリアラダーの到達目標が「あるべき人財像」として機能しており、成長や将来像のイメージの形成や役割の変化に寄与している
・段階的な自己学習やOJTを繰り返すことにより、指導者やリーダーレベルの職員の育成につながっている
・ラダーレベルに応じて手当てが付与される評価システムが、モチベーションの向上させていると推測される
・動画教材等の整備により、学習方法の周知や学習環境の整備につながっている

クリニカルラダーやキャリアラダーの整備と運用が、キャリアのイメージ形成や、ステップアップのための道筋など、専門職としての育成・成長を具体的なものとして認識し、日々の実践に向き合う上での大きな効果を持つものだと感じられました。

介護福祉士としての成長のために、どのような知識や技術が必要なのか、成長の段階をどのように考えるのか、これからの介護福祉士のキャリアの在り方、専門性の向上に向けた教育の在り方を考える上での参考になりそうです。

演題④:A病院で働く介護職員の介護観と介護技術評価の関係性

リハビリテーション系の病院であるA病院で働く介護職員の介護観と、介護技術評価尺度に基づく介護技術の実態から、介護の質の向上に向けての示唆を得ることを目的とした研究の報告でした。

①病院で働く介護職員の介護観として【考え、振り返る実践】は、【残存能力・機能】と【組織のルール・規範】との相関関係があること、②介護観が高い職員は介護技術評価尺度の点数も高いこと、③勤務経験10年未満の介護職員は、10年以上~20年未満の介護職員より【考え、振り返る実践】を行っている、といった結果が明らかになりました。

病院の中でチームとして連携し支援を行っていること、日々の支援の中で患者の残存機能を活かせているか、生活支援の視点に基づいた支援が行えているか、予測や筋道を立てた支援が行えているかといった、病院ならではの組織やチームの在り方や、生活における位置づけが、介護観に影響していることが推測されます。

どのような介護観を持っているか、よりよい介護技術を有しているかは、介護の質に関わりのあることです。今回は、先行研究に基づいて、「介護観」や「介護技術」の尺度を用いて調査が行われていますが、そうした手法に基づいて、他の職域で働く介護職員との比較や、同様の職域で働く介護福祉士と介護助手の比較など、さまざまな比較が進み、共通点や違いを見ることができるようになると、介護福祉士にとっての専門性の確立や明確化につながるように思いました。

演題⑤:介護職の教育体制への取り組み―専門性を深める教育体制の構築に向けて―

教育課程や経験の違いから介護実践や専門性の理解に差があるのではないか、との問題意識に基づく、教育課程や現場で受けてきた教育等についての調査を通じた、現場における介護職の教育に対する示唆を得ることを目的とした研究の報告でした。

A院(回復期リハビリテーション病院)に勤務する介護福祉士を対象として行われた調査では、資格取得のルートの違いや、時期によってカリキュラムが異なるなど、職員間での違いが全国と同様にありました。

また、現場での新人指導を行った経験や受けた経験についての回答から、指導方法や指導内容が定まっていない職場もあることや、指導内容は定まっていても指導者によって指導方法が異なること、資格取得時期や経験などから指導側が不安やとまどいを有していることが明らかになりました。

このほか、学習を継続する上での課題として、研修費用の高さや、長期の研修期間の場合には休日を利用する必要があるなど、意欲があっても研修への参加を難しくする要因があることも確認されました。

介護福祉士の専門性を発揮できるように継続して統一した指導ができる教育体制や、自職場で継続して学び続け、自己研鑽に励むことができる教育体制が、今後もますます役割が増していくだろう介護福祉士にとって求められることが感じられる内容でした。

演題⑥:介護保険と一般就労同日併用から見えるケアーパーラーちばるの取り組み―

地域密着型通所介護(以下、デイサービス)と、隣接するテイクアウト店での就労を併用する試験的な取組(2023年6月、正式に許可)から、福祉サービスの利用へのとまどいや抵抗感に寄り添い、またやりがいや役割を持つことなど、利用者の思いやニーズを汲み取りながら行った実践からの報告でした。

転倒等のリスクから徐々にこれまで行ってきた畑仕事や家庭内の役割が減った高齢者のAさん、若年性認知症と診断され引きこもりがちになっていたBさん、それぞれに対する生活課題の支援としてデイサービスでのサービス提供、就労を通じたやりがいの実感や、役割や居場所があることの安心感につながっているテイクアウト店での就労が相互に補いあうことで、自信を取り戻していく様子などが伺えました。

利用者のために必要な支援とは何か、どうしたらよいか、と色々なものを組み合わせたり試行錯誤したりして、利用者の望む生活に近づける、よりよいケアにつなげることが「福祉」だと再確認させてくれました。

演題⑦:職員参加を促すアンケートによる生産性向上―介護労働安定センターの取り組み、魅力ある職場づくりを通じて―


介護労働安定センターの「魅力ある職場づくり」(介護分野における人材確保のための雇用管理改善推進事業)への参加をきっかけに、アンケートの集約とICT、IoTの活用を含む生産性向上の取り組みは密接にかかわるのではないか、との思いから、介護福祉施設(特別養護老人ホーム)職員を対象にアンケートという手法がどのように生産性向上とつながるかについての報告でした。

アンケートの実施は、

①職員の意見を引き出す機会になる
②一人ひとりの声を集約し、公表、反映させることで共通認識の構築や、課題の意識づけのきっかけになる
③アンケートでの意見が実現することで満足度の向上につながる可能性がある
④「その他」の意見は貴重なアイデアになる ということが見えてきたそうです。

こうしたことから、アンケートの実施を通じて、職員の意見を集約し、施設や組織の意思決定に反映させることは、より良いケアや人材育成、職場づくりの風土づくりにつながること、共通認識の形成や課題の認識につながり、一人ひとりの職員にとって我が事や身近なものとして捉えられるようになることなどから、業務改善やケアの質の向上など生産性向上のための一手としてもなることが伝わってくるものでした。


各演題での質疑応答は、質問者のご所属や立場などから身近に引き寄せての質問、もっと詳しく知りたいと抄録や発表では触れられなかった部分への質問、根拠あるもの、よりよい研究とするために研究の背景や手法への質問やアドバイスなどが寄せられ、発表者へのあたたかな拍手で締めくくられていました。

座長からは、生産性向上とはICTや介護ロボットの導入にとらわれるものではなく、今までも私たちが向き合ってきた、現場での実践を振り返り、先を見据えて、どうやったら業務改善につながるか、介護の質が挙がるかを考える、これまでも行ってきた営みであり、これからも最適解を探して行い続ける営みであることを、確認できたのではないか。

というようなお話をいただきました。



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