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2023全国大会DAY2 第一分科会

大会2日目は分科会。
エンターテインメント性たっぷりだった大会初日とはガラッと変わって、この日は皆さん勉強モード。

実は日本介護福祉士会の全国大会・学会ですが、2日目の分科会発表のみ参加される方も結構いらっしゃるぐらい人気のプログラムなんです😊
今年のテーマは「認知症ケア」「生産性向上(ICT、介護ロボット、人材育成など)」「その他(地域共生社会、地域包括ケアなど)」の3テーマで計20の発表がおこなわれました。
どの会場も開始早々満員で、立ち見が出るほどの大盛況でした。



分科会①のテーマは認知症ケア。


機器トラブルにより定刻より遅れてのスタートとなりましたが、日頃の介護現場の業務に関わるテーマとあって皆さん興味津々のご様子で、会場後方の出入口付近まで立ち見が発生し、入場規制が行われるほどでした。


演台①:介護施設でのスピーチロック廃止の取り組みーテキストマイニングによる分析ー


演台1は「介護施設でのスピーチロック廃止の取り組みーテキストマイニングによる分析ー」。
全国の入所施設を対象とした大規模なアンケート調査の分析結果に関する報告でした。

スピーチロックとは、職員の言葉かけにより利用者の行動が抑制されてしまうことを指します。いわゆる身体拘束の一種であり、フィジカルロック(4点柵など物理的な拘束)やドラッグロック(薬剤の過剰投与や不適切投与など)と区別されています。
実際の介護現場では咄嗟の場面等で無意識な言葉かけが発生しやすいほか、スピーチロックに強い口調、態度が見られた場合、不適切ケアや心理的虐待に該当してしまう場合もあるため、注意が必要となります。
今回の研究では、介護現場でのスピーチロック廃止に向けた取り組み状況について調査が行われました。

アンケート回答の集計・分析の結果、介護施設における取り組みはスピーチロックそのものの廃止というよりは、身体拘束廃止や虐待防止、権利擁護推進の一環として対策が行われているということが明らかになりました。

具体的にはチェックリストを用いた言動のセルフチェックや、利用者への対応方法に関する事例検討・カンファレンス、会議・勉強会・研修などのほか、ポスター掲示による啓発や標語の音読による意識づけを行う施設も多いことが分かりました。

日常的な介護の場面では、ひとりの職員が複数の利用者に対応するケースが多いため、認知症高齢者への対応について咄嗟に抑止的な言葉かけをとってしまうことも一定程度あると思います。
だからこそ、日頃から職員個人レベルで意識づけを行い不適切ケアの防止に努めたり、ご利用者の心身の安定に配慮した穏やかな対応を心がけ、施設全体で継続的にケアの向上を図っていくことは非常に重要であると感じました。


演台②:他職種連携による「その人らしさ」の実現に向けてー認知症ケアにおけるチームケアの取り組みー


演台2は、認知症高齢者本人が望む暮らしやその人らしさの実現、自律支援を目的としたリハビリ機能強化型デイサービスでのチームケア実践・他職種連携に関する事例報告でした。

アルツハイマー型認知症を患うAさんについて、病気の理解を深めるための勉強会を実施。理学療法士と連携したリハビリプログラムの作成、管理栄養士による栄養指導など、他職種を巻き込んでAさんの包括的な支援提供を行いました。

また、デイサービスでの過ごし方など、Aさん自身の意志・選択により決定できる環境を提供。本人のADLの状況やニーズに応じたきめ細かな支援を行うことで、身体機能の維持向上だけでなく、集団体操を通じた交流機会も増加。表情の緩和や会話の増加など、ポジティブな変化が多くみられました。

今後は地域共生社会の実現や地域包括ケアの推進を目標に、事業所内だけでなく、地域住民や商工会などを巻き込んだ活動を進めていきたいとのことで、個別のケースステディの枠を越え地域に目を見据えた検討をされている点も印象的でした。


演台③:健康運動実践指導者としての役割ー認知症に寄り添った支援ー


こちらもリハビリ強化型デイサービスでの事例報告です。
70代の男性認知症高齢者のニーズは「家族交流の機会をこれまで通り継続したい」

そのため支援者に課せられたミッションは、男性の認知機能、身体機能の向上を図ること。
健康運動実践指導者、理学療法士との連携のもと、コグニサイズ体操と回想法を用いた「デュアルタスクトレーニング」に取り組みました。

男性は認知症による集中力の低下が見られたことから、健康運動実践指導者が寄り添い、コミュニケーションの取り方に配慮しつつ本人のニーズを引き出すことを意識した支援を行いました。

支援の結果、HDS-Rの点数が優位に改善し、家族との会話が増えたほか同じデイサービス利用者との交流も増加。さらに、夜間の中途覚醒が減少し、安眠につながったとのことでした。

今回のケースでは、認知症により集中力を保つのが難しい対象者に、関わり方の工夫により複雑な訓練を可能にしたという点が評価できるかと思います。
どんなに優れた手法や技法も、それを活用する支援者次第。介護の基本は技術でなく「心遣い・思いやり」であると改めて感じました。


演台④:行動心理症状(BPSD)についてーその人らしく生活する為に寄り添った介護ー


演題4は認知症高齢者の行動分析に関する研究です。
グループホーム入居者のBPSD症状と思われる言動を記録し、「なぜそのような言動に至ったか」と背景要因を探るという興味深いものでした。

記録に用いたのはc-reportというクラウド型記録アプリと録画端末による動画撮影とのこと。
動画撮影という客観的記録と、クラウドシステムの利用なんて、一昔前は想像できなかったような世界だなぁと、介護業界の技術の進歩を感じました。

得られたデータは症状の内容に応じて知覚、情報、気分、行動とジャンル分けされ、定期カンファレンスにて行動パターンを分析。
さらに分析結果に基づき声掛けの方法を見直すなど、個別ケアのあり方の改善にも繋がったそうです。

これこそが「科学的根拠に基づく介護実践」と言えるような実践研究だと、発表を聞きながら感じました。
介護の世界でもこうしたデータ化、言語化が進めば、他の専門職との連携もよりスムーズに行うことができるようになりそうですね。


演台⑤:ヒロさんの畑ー認知症があっても我らアクティブシニアー


こちらは介護実践と地域づくりのハイブリッドと言っても過言ではないのではないのでしょうか。
畑の継承を通した認知症高齢者の生きがい支援から地域との交流にまで繋がった、ソーシャルケアワークの実践報告です。

病気に侵され余命宣告を受けたヒロさんは、休耕地となってしまった自分の畑を何とか蘇らせたいと、人生最後の願いをケアマネジャーに打ち明けます。
ヒロさんの願いを叶えるため、ケアマネジャーを中心とした介護職チームは、地域に居場所・活動の場が少ない3人の認知症高齢者を畑の継承者としてマッチング。毎週土曜日の朝に農作業を行う活動を開始しました。

3人の活躍の甲斐あってヒロさんの願いは無事叶い、休耕地は復活を遂げました。
さらに、畑から採れた作物を子ども食堂に寄附したり、畑に遊びに来た子どもたちに“わらじ作り”を教えたりと、畑での活動を通して地域との交流機会も次第に増えていきました。
現在では、地域イベントであるマルシェへの出店や、“わらじ作り”がきっかけとなり、編み物教室の定期開催など、地域との良好な関係性を築きながら活動を継続しているそうです。

3人の認知症高齢者にも、大きな変化が見られました。
認知症の進行から自宅にこもりがちだったKさんは、農作業や地域との交流を通して他者とのコミュニケーションをとることで意欲の向上につながりました。
元保育士のSさんは、地域の子どもたちや異世代との交流により意欲が刺激され、畑仕事をしながら、若い頃にしていた仕事の話などをしてくれるようになったそう。
軽度認知症(MCI)のMさんは、同世代の仲間と切磋琢磨して畑仕事を行うことで、日々穏やかに生活できるようになり、認知機能も継続的に維持できているそうです。

認知症や要介護というと、“支援する側”と“支援を受ける側”のような枠組みで捉えてしまいがちですが、本人のできることや強みを活かすことで、ひとりの住民として自然に地域への参加・貢献などができる。それが地域住民の理解・受け入れに繋がり、本人にとっての自信や生きがい獲得につながるのだと、今回の事例報告を受けて感じました。


演台⑥:活動を通じた改善活動ー自己表現と役割ー


分科会①の最終演題は、深い本人理解に基づくケア向上の事例報告です。

グループホームで生活する80歳男性のご利用者は、普段は穏やかで協力的な紳士。しかしアルツハイマー型認知症の症状により、衝動的に破壊行動をとる場面が発生します。
研究発表者の黒澤さんは、破壊行動のエネルギーをポジティブな方向に転換することで、男性が持っている力を発揮し、活躍できるような支援を提供したいと考えました。

支援にあたっては、男性の生活史に関する情報を丁寧に収集し、本人理解を深めることから始めました。
次に、ご本人の日常の行動を細やかに観察し、どのような状況で破壊行動が発生するのか、データを収集し、チームカンファレンスで男性の破壊行動の背景要因を深く分析。
分析の結果、男性の破壊行動の根本には仕事があるのでは、との可能性にたどり着きました。
電子機器工場で勤務していた男性は、長年ものを作る、直す、点検するといった作業を担当してきました。ご本人の意識では仕事をしているつもりが、認知症による記憶障害や理解力・判断力の低下により破壊という行動に変換されてしまっていると仮説を立てた黒澤さんは、男性の自主性を尊重しながら、仮説に基づく支援を行いました。

洗車や清掃など、男性の能力や仕事経験を活かした活動のほか、趣味を活かした活動の提供により、落ち着いて能力発揮が可能となり、破壊行動の減少につながったとのことでした。

対象者理解は対人援助職の基本ですが、対象理解に必要なはずの情報収集についてはどうしてもすぐ必要な情報、簡単に手に入る情報を集めてしまいがち。
ご利用者さんの生活史を細かく深掘りし、高精度で行動分析を行った今回の事例報告は、新人スタッフのみならず、ベテラン職員さんにとっても参考になる研究なのではないか、と感じました。



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